境界性人格障害(BPD)

境界性人格障害(ボーダーライン)』患者は、ある種のパーソナリティ障害(個人の認知・情緒・行動の一貫した特性)を持っている。神経症の仮面をかぶり、しかし統合失調症でもなく両者の移行状態にいる。一見正常に見えるが、内面は空虚で、うつろい、変化しやすいといった病理をもつ人を指す。
O・カンバーグ(1967)は『自我心理学』を基礎としながらも『対象関係論』に大きく影響を受けた『ボーダーライン・パーソナリティ構造(BPO)』の概念と治療技法を発表した。その診断のためには『記述的分析』『構造論的分析』『力動的・発生論的分析』の3つが必要であるとした。
記述的分析とはパーソナリティの把握である。慢性的な不安が持続し、汎神経症と言われるような、恐怖・脅迫・心気などの神経症の症状に伴い、衝動的・妄想的・軽躁的な傾向や、嗜癖(アルコール・薬物・過食)、倒錯がみられることをいう。
構造的分析的とは『フロイト』の『構造論』の自我・エス超自我の構造と機能を分析するとともの、防衛機制のありかたを中心に検討していくものである。
『ボーダーライン』に特有の『原始的防衛機制』と呼ばれる未熟な防衛機制のあり方を吟味する。原始的防衛機制には『分裂』『投影性同一化』『原始的理想化(万能感)』『脱価値化』『否認』がある。
ボーダー患者は、相反する情緒や思考を心の中に保持できず、葛藤ができないため心から切り離し(分裂)、自分の中にはないと否認し、それだけでまだ不安がぬぐえない時は、「怒り・攻撃性」は外界の誰かに投影して、安全な場所から外界の「悪い自己」をコントロールしようとする。「すべて良い」または「すべて悪い」のような世界に生きている。「良い」と思えるとほれ込む(原始的理想化)、幻滅すると悪いと決め込む(脱価値化)。これは、自己に対しても同じで、過剰に卑下したかと思うと、(幼児的万能感)を抱いたりするのである。虐待や『ネグレクト(放置)』からなるとも言われている。
『マスターソン(1976)』よれば、特徴は「みすてられ抑うつ〈不安)」にあるとした。幼少期の母子関係の影響から、愛着を向けた他者に見捨てられると絶えず不安を抱いて、見捨てられないために、自殺脅しなど、なりふりかまわない努力をする。
また、『G・アドラー(1985)』によれば、基本病理は、生後18ヶ月に獲得する喚起能力の欠如ののため、安らぎを与える対象『自己対象』を喚起できないことから、外的な存在を絶えず必要とすると述べている。
ボーダー患者は抑うつ状態で助けを求めて受診することも多いが、専門家側では、ボーダー患者側の手に余る問題を『転移』と呼ばれる形で一時的に引き受ける必要が生じてくるが、治療者の心の安定が『逆転移』により大きく揺さぶられ、その関係は泥沼になることも多い。精神科との連携も必要となり、ボーダーのその概念から最も問題になる患者群なのである。 参考文献 守屋直樹「人格パーソナリティ障害への対応」 平島奈津子「精神分析入門」
ここでは、あえて『クライエント』ではなく患者という言葉にさせてもらった。専門書によって書き方はまちまちであるが、どちらかというと精神科の分野に近いと判断させてもらったからだ。
これからも、ボーダーを引き受ける技量はとても私にはないが、ここで心配になるのは、最初の厳しい『見立て』が必要になるということだ。初期段階の『心理アセスメント』において『妄想』や『幻覚』『幻聴』などの症状が伴うことが解れば正しい結論が出せるだろう。そう、それはボーダー以外にも言えることだが、精神科との連携や薬物投与が必要になる。しかし『神経症』や『抑うつ』などでボーダーが潜んでいる場合も考えられるため、『見立て』の段階では、慎重かつ冷静な『心理臨床的視点』が必要になると言える。
近年、増え続ける虐待や『ネグレクト(放置)』だが、それ自体が連鎖すると言われているが、そう考えると、問題の基からから絶たなければボーダーはこれから一層増えてくるとも言えるであろう。
その他の人格障害についてはまた。